膝蓋大腿関節痛症候群の治療アルゴリズムの評価:予備研究
- Ryota Sugawara
- 2016年10月7日
- 読了時間: 4分
Point
・「PFPS治療アルゴリズム」を作成し臨床応用可能か調査した試験的なRCT
・アルゴリズムは患者を不安回避、柔軟性、マルアライメント、筋力強化のサブグループに分類し段階的に治療をすすめる
・アルゴリズム使用によりAKPS,GROCスコアは改善し、今後の研究発展は可能である
◯背景
Patellofemoral Pain Syndrome(PFPS)ははっきりした病因はなく多様な条件下で発症する。原因が多いせいで莫大な量の治療介入が存在する。PFPSのより良い治療のために、患者をサブグループ化するシステムが提唱されているが有効性はまだ評価されていない。また、分類システムについて身体機能障害に対し介入する報告はあるが、心理社会的因子も重要とされている。
以上の背景より、臨床症状に基づいて4つの群にサブグループ化する分類システム(PFPSアルゴリズム)をデザインした。今回、PFPSアルゴリズムの正当性を検討するためのRCTとうまく実行できるかの可能性を評価するために試験的研究を実施した。
◯方法
●デザイン 2つの理学療法クリニックで治療継続中の患者を対象とした試験的RCTである。
●介入基準 12歳以上、膝周囲の疼痛がある者
●除外基準 膝蓋腱、膝蓋骨下極、脛骨粗面の圧痛がある。膝蓋腱炎、腸脛靭帯炎、オスグットなどの診断がついている。膝の手術前。膝蓋骨脱臼、亜脱臼の既往。
●介入 週に2回の理学療法を6週継続(計12回)。毎日行うホームプログラムも課題。
●PFPSアルゴリズム(Figure 1)
①最初の評価は「不安回避」である。Fear Avoidance Belief questionnaire-physical activity subscale (FABQ-PA) modified for the kneeの点数が15点以上だと不安回避群のグループに分類され、患者教育と徐々に刺激を与えていくという段階的介入が実施される。不安回避の教育は解剖学的知見に重きを置かず、活動の役割を見つけるために励ましていく。
②「柔軟性」は2つ目の評価である。大腿四頭筋、腓腹筋、ヒラメ筋のうち1つが硬いと柔軟性不足と判断する(Figure 2,3,4,5)。次に二次的な評価としてトーマステスト、Ober test、SLR、背臥位での股内転可動域を測定し3つの硬さがあれば柔軟性不足となる。このグループの治療は筋のストレッチが中心である。ストレッチ単独で効果がないときは低強度の大腿四頭筋、股関節周囲筋の強化も取り入れる。
③3つ目の評価は「機能的マルアライメント」である。このグループは運動中の体幹・下肢の神経筋調節に取り組む。評価はlateral step down test(Figure 6),single leg squat test(Figure 7)である。この評価は先行研究に基づいている(Rabin A et al, J Orthop Sports Phys Ther. 2010;40(12):792-800)。スコアが不十分のときは運動中の下肢運動力学に注目し適切なアライメント保持のための筋力強化を行う。
④アルゴリズムの最後となる「筋力強化」のグループは大腿四頭筋、股外転筋、外旋筋の筋力強化に集中し、完全な活動レベルに戻すよう進行していく。
●成績評価尺度
・Numeric Pain Rating Scale (NPRS):0-10点の疼痛評価。
・Anterior Knee Pain Score(AKPS):質問紙表。100点満点で100点は能力障害がないことを表す。10点の差は臨床的な差を表す。
・Global Rating of Change(GROC):15点評価のLikert type scale(-7~+7)である。0は全く変化がないことを表し、+7は大きく改善、-7は大きく悪化していることを示す。+3/-3は臨床的な差を表す。
●データ解析
記述統計学と探索的分析法で計算。検者間信頼性はCohen’s Kappa統計量で計算した。
◯結果
2013年2月~2014年2月の間で介入基準を満たした30例が対象となり、21例が研究を完遂できた。
・検者間信頼性は非常に良く、Kappa Score 0.90であった。
・NPRSは平均-1.84±1.04の変化であり臨床的に有意な変化は示さなかった。
・AKPSは平均18.0±6.27の変化を認め有意に改善した。
・GROCは平均5.30±1.42の変化を認め有意に改善した。
・十分なRCT実施のためのサンプルサイズ予測
今後十分なRCTを行うためのサンプルサイズはサブグループ毎に25例の対象が必要となる。
◯考察
ASPS、GROSは有意な変化を認めPFPSアルゴリズムは有効とみなされた。AKPSは広く使用されておりその妥当性と信頼性は証明されている。GROCも患者の全体的な改善効果の認知レベルを評価するために適切と思われる。この2つは今後十分なRCTのoutcome評価としても適切である。
本研究では5人のセラピストが検者となり、患者のサブグループ化おける検者間信頼性は90%と高い結果であった。アルゴリズムは通常の診療場面で容易に実施可能であると思われる。今後十分なRCTのために必要なサンプルサイズは各グループ25例である。ドロップアウト率を15%とするとトータル58例の患者が最低でも必要となる。
◯結論
PFPSアルゴリズムに基づいた治療介入は軟部組織tightness、下肢運動力学の変化、神経筋の欠陥、心理社会的因子の改善に取り組み、結果としてAKPS、GROCに有意な変化を認めた。今後十分なRCTでPFPSアルゴリズムの有効性を評価することは可能である。
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