鎖骨骨折のみ内固定されたfloating shoulder の機能成績
- Yuta Chida
- 2016年9月23日
- 読了時間: 3分
Point
・鎖骨骨折のみ内固定されたfloating shoulderの機能成績を後ろ向きに調査
・多くの患者は良好な肩関節ROM,疼痛軽減,仕事復帰を果たし機能成績は良好であった
・転位の少ないfloating shoulderは鎖骨骨折内固定のみで機能回復を期待できる
○背景
floating shoulderは一般に肩甲骨骨折(体部or頸部)に同側の鎖骨骨折または肩鎖関節脱臼によって生じる高エネルギー外傷である.superior suspensory shoulder complex (SSSC)が破綻し,肩甲骨関節窩の損傷を伴うことも少なくない.floating shoulderの治療方針は長年議論されているが不明瞭なままである.本研究の目的は鎖骨骨折にのみ内固定を行ったfloating shoulderの機能成績を調査することである.
○方法
2002-2010年の8年間でfloating shoulderと診断された32例の内,下記基準を満たす13例が対象.平均年齢46歳(18-60歳)であり,男性10例,女性3例.全例がバイク事故による高エネルギー外傷例であった.
・診断基準:鎖骨の内固定の基準はXpでのAP像で20m以上の短縮があるもの
・除外基準:鎖骨・肩甲骨骨折とも保存例もしくは内固定例,記録に不備のあるもの
・follow-up:平均16か月(12-45ヵ月)
・患者情報:骨折型はOTA/AO分類を使用
鎖骨 15-B1 (5例38.4 %) 15-B2 (7例53.9 %) 15-B3 (1例7.7 %)
肩甲骨14-A3.1(7例53.9 %) 14-A3.2(5例38.4 %) 14-C1.1(1例7.7 %)
・評価項目:肩関節ROM,疼痛(VAS),骨癒合,仕事復帰率,Herscovici score
・ 後療法 :術後1-2週で他動ROM運動開始,術後6週で自動ROM運動開始
○結果
機能成績は良好であり12/13例で骨癒合が得られた.
・肩関節ROM:8例(62%)が屈曲・外転とも180°獲得 平均屈曲170.8°外転163.1°
・疼痛(VAS):疼痛の程度は1-3がminimal,4-6がmoderate,7-10がhighと設定
11例(85%)がminimal,1例(7.7%)がmoderate, 1例(7.7%)がhign
・骨癒合:12例(92%)で鎖骨・肩甲骨ともに骨癒合が得られた
1例(8%)が偽関節(術後感染も合併)となりplateを入れ替えた
・仕事復帰:全例仕事復帰されたが1例のみ完全復帰とはならなかった
・Herscovici score:3カ月時に評価し平均12.9(10-15)点.4例good,9例excellent
*9-12点:good 13-16点:excellent
○考察
転位の少ない単独での鎖骨骨折や肩甲骨骨折は保存療法で問題ないがfloating shoulder は受傷形態も異なり高エネルギー外傷であることから複雑な骨折パターンや肩関節や胸部での合併損傷を伴うこともしばしばある.
本研究の結果では肩関節ROM制限や疼痛が強く残存した症例もあるが機能成績は全般的に良好であった.Herscovici scoreは平均12.9点とexcellentに近い値である.著者らは転位の少ないfloating shoulderは鎖骨骨折の内固定のみで良好な機能成績が得られると考える.
本研究の弱みはUCLA shoulder scoreや ASES shoulder scoring scale,Constant–Murley score,DASH等での評価が不足していることである.また,本研究の結果のみではfloating shoulderの治療方針を標準化することはできない.更なる研究が必要であり,①鎖骨の内固定により肩甲骨はどの程度解剖学的に整復されるのか②受傷時の損傷,鎖骨の内固定,肩甲骨の変形治癒が肩関節痛に与える影響③肩甲骨を内固定したことによる理学療法や職場復帰に与える影響を明らかにしていく必要がある.
○結論
転位の少ないfloating shoulderは鎖骨骨折の内固定のみで良好な機能成績が得られる.肩関節痛の強く残存した症例や偽関節となった症例もいるが,全例仕事復帰を果たすことができている.
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