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アキレス腱断裂後に対する早期リハビリテーションを用いた手術療法と保存療法の比較 無作為化比較試験

  • Kojiro Araki
  • 2016年9月16日
  • 読了時間: 5分

Point

・アキレス腱断裂に対する強固な腱縫合&早期リハv.s.保存療法

・再断裂率は手術療法0%,保存療法10%

・手術療法は保存療法と比べて3, 6, 12ヶ月での機能成績が有意に上回ることがなかった

◯引用元

◯背景

 アキレス腱断裂に対する最適な治療法に関してコンセンサスは十分ではない.早期荷重や早期運動といった腱に対する早期の負荷は治癒や合併症を最小限にする利益を生み出す要素の1つである.早期リハビリテーションは良好なアウトカムが得られると考えられるが,過去の多くの報告は再断裂率や深部感染率といった合併症を比較しており,機能的アウトカムに関する報告は少ない

 本研究の目的はアキレス腱断裂後に強固な修復を行ない早期から負荷をかけるリハビリテーションと従来の保存療法を客観的評価,患者立脚型評価を用いて比較することである.

◯方法

 対象は2009年4月から2010年10月に受傷したアキレス腱断裂患者201名のうち適格基準を満たした100名(平均年齢40歳,男性86名,女性14名)とした.対象者はランダムに手術群49名と保存群51名に割り付けた(Fig.1).

 手術は主縫合にKessler変法と補助縫合にcross-stitch法を用いた(Fig.2).縫合時のテンションは腹臥位膝関節90度屈曲位で足関節が20度底屈位になることを指標にした.術後はキャスト固定ではなくアキレス腱装具Aircast(3pads, 底屈約22度)を用いた.保存療法でもAircastを用いた.リハビリテーションプロトコールはAppendixを参照.診察は手術群で術後2, 6, 26週,保存群で受傷後8, 26週に実施した.再断裂や感染,神経障害の有無を観察した.

 評価は3,6,12ヶ月後に実施した.評価者はブラインドされた.主要アウトカムは

Achilles tendon Total Rupture Score (ATRS)を使用した.副次的アウトカムには再断裂や各種合併症の発生率,機能テスト,主観的評価 (EQ-5D),身体活動レベル(The Physical Activity Scale (PAS))を用いた.ATRSは0-100点で表され,点数が低いほど症状が大きく身体活動に制限を受けている状態である.PASでは1は身体活動が全くないことを表し,6では1週間に数回の強度の大きい身体活動を行なっていることを表す.機能テストでは片脚でのドロップジャンプ,ホッピングの高さ,片脚calf raise時の荷重程度,連続で実施可能な片脚calf raiseの回数を測定した.

 群間比較は対応のないt検定かWilcoxon検定,健患比較は対応のあるt検定かMann- Whitney U検定を用いた.順序尺度の場合はχ二乗検定を用いた.全ての検定において有意水準は5%とした.

◯結果

 ATRS(Table 2)は手術群が3ヶ月:43±20, 6ヶ月:70±23, 12ヶ月:82±20,保存群が3ヶ月:35±14, 6ヶ月:70±19, 12ヶ月:80±23であり,どの時期においても群間に有意な差を認めなかった.ATRSは両群とも3, 6, 12ヶ月で有意に改善していた.PAS(活動レベル)は6,12ヶ月において両群間に有意な差はなかった.また両群とも12ヶ月時点と受傷前の間に有意差はなかった.EQ-5Dは6.12ヶ月で両群間に有意差はなく,受傷前のレベルまで改善していなかった.機能テスト(Table 3)は12ヶ月においてホッピングとドロップジャンプが手術群で有意に高かった.その他の機能テストの項目に群間で有意差はなかった.

 再断裂は手術群で0,保存群で5(10%)存在したが,発生率に統計学的有意差はなかった(p=0.06).手術群では6名(12%)に創部の表層感染を認めた.

◯考察

 本研究の結果から強固な腱の固定と早期リハビリテーション(早期荷重,早期運動)を組み合わせた手術療法は大きな合併症がなく実施できたが,保存療法と比較して成績が向上するという確実な根拠は得られなかった.

 ATRSは有意差はないが,3ヶ月時点で保存療法に比べ手術療法が良い傾向にあった.これはNilsson-Helanderらが過去に報告している内容と同様である.身体活動レベルは12ヶ月後には受傷前と同様のレベルまで回復していた.過去の報告(Moller et al, Cetti et al)では12ヶ月時点でも受傷前の身体活動レベルに回復していないことが多く,この点では手術療法,保存療法に限らず最近のリハビリテーションプロトコールはプラスの結果を生み出していると考えられる.QOL評価は両群で差がなかったが,12ヶ月の時点では受傷前と比較してQOLが低下しており,アキレス腱断裂は下肢機能のみならず,全般的なQOL低下を引き起こすことが示唆された.

 12ヶ月での全ての機能テストでは手術群が保存群と比較して良い結果だったが,統計学的有意差があったものはホッピングのドロップジャンプのみだった.Nilsson-Helanderらも同様の機能テストを実施しており,手術群が保存群より良い傾向にあったと報告している.このように手術群の方が機能回復に関して有利である可能性があるが,そのためにはよりサンプルサイズを大きくして検討する必要がある.再断裂は手術群が0名で保存群が5名だったにも関わらず有意差がなかった.これはtype II error(差があるのに差がないとしてしまう)である.過去のメタアナリシスでは手術群の方が保存群に比べ有意に再断裂のリスクが少ないと報告されている.

 研究の限界として①手術で用いた縫合の生体力学的データがないこと②手術と早期リハとう2要因と保存療法を比較しており,手術群は手術と早期リハの影響を受けていること③荷重は即日許可していたがどの程度荷重していたか不明であることが考えられる.我々のデータでは手術療法が保存療法に優れるか支持することはできないが,再断裂率が低く,大きな合併症がない手術療法と早期リハは十分実用的である.

◯結論

 アキレス腱断裂に対して強固な腱縫合を実施し,早期荷重と早期運動を行なうリハビリテーションを実施したところ再断裂は生じず,大きな合併症もなく経過した.しかし,この方法は保存療法と比較して機能成績,身体活動レベル,QOLが有意に改善するとはいえない.


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