膝蓋骨骨折の骨接合術後アウトカム:機能障害の評価
- Ryota Sugawara
- 2016年4月4日
- 読了時間: 4分
Point
・膝蓋骨骨折骨接合術後患者30例の機能アウトカムを術後3,6,12ヵ月時点で評価
・各評価時期で健側比30%以上の大腿四頭筋筋力低下を認めた
・対象の80%に膝前方部痛(AKP)が残存しておりAKPが筋力低下や機能障害に影響していることが示唆された
◯背景
膝蓋骨治療の目的は膝伸展機構再建にある。手術治療は進歩している一方で満足のいくoutcomeは得られていない。本研究では膝蓋骨骨折患者のfunctional outcomeを定量的に評価した。
◯方法
2008年4月~2010年4月までに骨接合を施行した35例中30例が対象となった。術後3ヵ月で独歩困難例、反対側下肢に問題がある者は除外した。平均年齢60.2歳。女性24例、男性6例。骨折型はAO分類34-C1.3が2例、C2.1が2例、C2.2が2例、C2.3が2例、C3.1が11例、C3.2が11例であった。
●治療アルゴリズム
・関節面のstep-off 3mm以上または5mm以上の骨片離開があるものに手術した。
・関節面は直視的に整復した。主骨片同士はwire or screwで固定し、Cerclage wiringは小骨片固定のために使用した。粉砕例には膝蓋骨に3つのdrill-holleを開け膝蓋腱へのKrackow法に2つの非吸収性sutureを付加した。
・術後伸展位歩行は許可しQuadの等尺性収縮とSLRは早期に開始した。4週で自動伸展、筋トレ、ROM運動を開始した。筋トレはPF関節への過負荷を避け徐々に漸増した。PTは最大6ヶ月まで続けた。
・機能評価は術後3,6,12ヵ月時に主観的、客観的評価を行なった。癒合評価のためX線撮影も定期評価時に施行した。
●主観的評価
・ADLS-KOS (Activities of Daily Living Scale of Knee Outcome Survey)
・LEFS(Lower Extremity Functional Scale)
どちらも患者立脚型の質問紙表。0-100点で採点し100点が良い。ADLS-KOSは日常生活での膝特有の症状と機能制限を評価する。LEFSはSF36と比較し下肢の障害に特化したものである。
●客観的評価
患側と健側を比較し健側をcontrol群とした。Balance Master(床反力計)を用いたCKC機能評価とOKC筋力評価を実施した。また大腿周径も各評価日に測定した。
CKC:Sit-to-stand test(起立)、Forward-lunge test(前方ランジ)、Step-up-and-over test(20cm段昇降)
OKC:座位でQuad、腹臥位でHamstringsを評価。
それぞれのIsometric Strength,Dynamic Power,Dynamic Enduranceを測定。
◯結果
全例骨癒合を確認した。11例(37%)はimplant刺激症状があり抜釘した。平均ROMは伸展-1°、屈曲135°であった。
●主観的評価
ADLS-KOSとLEFSどちらも術後6ヶ月で有意に向上した。6ヶ月以降の有意な向上はなかった。12ヵ月時点のADLS-KOSは75点、LEFSは70点で機能障害の持続が明らかとなった(Fig.1)。また、最終で24例(80%)に日常生活動作時のAKPを認め、特に起立、着座、階段降段時のAKPであった。
●客観的評価(Fig.2,Fig.3)
12か月時、forward-lungeでは患側で接地衝撃が強く、ランジ距離は減少し、接触時間は増え、患側下肢全体の運動制御能低下を示唆する結果であった。The step-up-and-over testでも患側の接地衝撃が強く、より長い動作時間により、運動制御能低下と遠心性収縮能の低下が示唆された。
筋力評価は先行研究より30%以上の差を有意な差とした。Quadは各評価時期で明らかな制限を認めた。12ヵ月時のQuad評価ではIsometric Strength低下(-41%)、Dynamic power低下(-47%)、Dynamic Endurance低下(-34%)が認められた。また、大腿周径は平均1.2±1cmの差があり、最終で27例中11例(41%)は1.5cm以上の差を認め、筋萎縮の証明となった。
◯考察
膝蓋骨骨折術後の機能障害の問題は存続している。本研究では筋力低下、機能低下は術後12ヵ月まで持続し、対象の80%がAKPを訴えた。
AKPは術後共通の症状として知られている。術後の膝伸展筋トレが制限され、伸展筋は萎縮・弱化→膝蓋骨maltracking→関節面へのストレス増加→AKPという一つの悪循環が起きているかもしれない。実際に本研究では大腿筋萎縮の高い発生率(41%)が証明されている。maltrackingとAKPに影響する要因として、膝周囲組織の瘢痕、拘縮があり、これは受傷時か手術操作で生じている可能性がある。関節内骨折では関節炎への進行が懸念される。本研究のX線ではPF関節の関節炎変化は観察できなかった。しかし、起立や階段降段時のAKPは80%存在し、この症状はPF関節炎の典型的症状とも言われている。
本研究ではAKPが理学療法の効果を制限し、筋力低下と機能低下と不満足感に影響していることが示唆された。本研究の限界は、対象が高齢女性に偏ったこと、X線評価がPF関節マルアライメントと関節変化を完全に評価できるものではないこと、骨折型が異なること、対象数が少ないことが挙げられる。
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