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股関節肢位と頭位が足関節背屈運動に及ぼす影響

Point

・股関節肢位および頭位によって足関節ROMが影響されるか検討した.

・股関節屈曲角度が増加すると足関節背屈ROMは減少する.

・一定の関節角度では受動トルクと剪断波弾性率はすべての条件で同様だった.


◯引用元

Andrade RJ, Lacourpaille L, Freitas SR, McNair PJ, Nordez A. Effects of hip and head position on ankle range of motion, ankle passive torque, and passive gastrocnemius tension. Scand J Med Sci Sports [Internet]. 2016 Jan;26(1):41–7. Available from: http://doi.wiley.com/10.1111/sms.12406


◯背景

 一般的に,筋の受動張力は受動トルク-角度の測定により推定される.足関節背屈ROMは腓腹筋筋長の変化により,膝関節角度の影響を受ける.股関節と足関節の相互作用に関しては,両関節をまたぐ筋腱複合体が存在しないため,股関節角度の変化は足関節背屈の受動張力と最大背屈角度に影響しないと考えられる.しかし,膝伸展位で股関節を屈曲させた際に足関節背屈ROMは股関節中間位と比較して低下すると報告されている(Mitchell et al., 2008).ここで,2つの仮説を考えた.一つ目は下肢筋膜連結により張力の伝達が生じるのではないかということ(Boyd et al., 2009),二つ目は坐骨神経の緊張変化である.体幹の屈曲によって坐骨神経が移動するという報告がある(Ellis et al. 2012).さらに,Johnson and Chiarello(1997)は,頭部を屈曲した際に膝ROMが減少することを発見し,潜在的なメカニズムとして末梢神経の緊張を提唱していた.受動トルクは非侵襲的ではあるものの,関節に関連する全ての構成体を「ひとまとめ」に測定するため,個別の組織の影響は不明だった.近年では剪断波エラストグラフィーにより組織ごとの弾性率(伸張度合いの指標)を測定できるようになった.

 本研究の目的は,股関節と頭部の位置変化を変化させて,足関節背屈時の受動トルクと腓腹筋(GM)の弾性率を測定することである.



◯方法

対象は健常男性9名(平均年齢25歳).測定は等速性運動装置(Biodex 3)を使用した.被験者は膝伸展位の座位とし,足部をダイナモメータに連結した.股関節角度は背もたれを調整し規定した.超音波診断装置Aixplorer ultrasound scannerの剪断波エラストグラフィーにより腓腹筋の弾性率を測定した.

股関節屈曲30度(本文では150度と記載),90度でそれぞれ頭位中間位と最大屈曲位の全4肢位で測定した(Fig. 1).測定順序はランダムとした.我慢できる最大の角度まで他動的背屈トルクを与え,最終域まで受動トルクとGMの弾性率の測定を行った.

統計解析はSPSS 20.0を用いて2元配置分散分析(股関節2肢位×頭位2肢位)を足関節最大角度,受動トルク,弾性率のそれぞれで解析した.有意水準は5%とした.


◯結果

1例の特徴的なLaw data(トルク-角度,弾性率-角度)をFig.2に示す.

股関節角度の主効果は最大足関節ROM,ピーク受動トルク,ピーク弾性率に認めた(Table.1).頭位は全て変数において主効果を認めなかった.

相対的な足関節ROMで検討すると,股関節肢位,頭位は交互作用を認めなかった.弾性係数-角度関係をFig.3に示す.足関節背屈最大ROMまでの関係性をみると,股関節および頭位の影響は認められなかった.

◯考察

 足関節背屈最大ROMが股関節角度によって強く影響されたのに対し,受動トルクとGMの最大張力(弾性率)は影響を受けなかった.また,頭位は足関節背屈ROMに影響を与えなかった.

股関節屈曲角度を増大させると最大背屈角の劇的な減少(> 50%)が生じた.Mitchellら(2008)の先行研究と同様の結果であった.本研究の結果では,同等の足関節角度において受動トルクとGMの弾性係数の両方が股関節肢位,頭位によって影響されないことが示唆された(Fig.3)。足関節ROMの変化はGMの張力変化によって引き起こされたのではないことを示している.これは股関節周辺組織と腓腹筋の間に力学的な伝達がないこと意味するため,影響する可能性がある組織は筋膜および末梢神経である.Carvalhaisら(2013)は,関連していない関節を動かすことによって筋膜組織が間接的に伸張され,受動トルクが増加することを指摘した.これより,筋膜組織の緊張が受動トルクと筋緊張に影響することが考えられる.

末梢神経はストレッチトレランス(どれくらい我慢できるか)に影響したと考えられる.股関節および足関節の肢位変化が坐骨神経の神経の変位に影響したり,神経内圧を上昇させたりすると報告されている.従って,本研究で観察された股関節屈曲角度増大に伴う,足関節ROMの減少は末梢神経の機械的感受性の増加によって説明することができるかもしれない.

 本研究では,股関節肢位は足関節背屈最大ROMに影響を与えるが,GMの張力および,足関節の受動トルクには影響を与えないことが示された.

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