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手関節固定期間は肩関節痛と関連する:観察研究

Point

・手関節固定後に生じる肩の疼痛の程度を調査し、手関節固定期間との関連を評価した。

・手関節固定期間と肩痛の程度には関連があった。

・固定期間3.5週以上では肩のリハビリが必要となる可能性が高い。


〇引用元

Cantero-Téllez R, Garcia Orza S, Mark.D Bishop et al. Duration of wrist immobilization is associated with shoulder pain in patients with after wrist immobilization: an observational study. Journal of Rehabilitation14(4).2018

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30276195


〇背景

上肢は一つの関節の機能が他の関節の機能に影響を与える機能連結でつながっている。例えば腕を伸ばすには肩-肘-手首の動きを複雑に制御する必要がある。上肢では一つの関節の制限は他の関節運動を制限する。我々は手関節を固定するとADL動作を制限し上肢筋の相互作用が破綻し誤った運動パターンを呈すため、疼痛、防御反応、疲労などを引き起こすと考えた。本研究では、骨折後の手関節、母指の固定期間と肩の機能障害との関係を確立することを目的とした。また、固定期間と肩リハビリテーションの必要性について検討した。


〇方法

<対象>2015年4月~2016年10月にマラガの整形外科で橈骨遠位端骨折、舟状骨骨折にて前腕近位2/3から手関節、母指まで固定した肩の手術既往、2年以内の上肢既往がない18歳以上の患者とした。

<study protcol>

・手関節-母指の固定期間は3-8週。

・固定期間終了後に基本データを収集。年齢、性別、診断、固定期間、ADL上の同側肩痛の有無(VAS)

・1ヵ月、3ヵ月後にフォローアップ。全例手関節のリハビリを受けたが固定期間中は肩のリハビリ未実施。

<統計解析>

・固定期間と肩痛の関連はピアソンの相関係数を使用した。固定期間と肩痛に伴うその後の肩のリハビリ治療もピアソンの相関係数で評価した。

・固定期間と疼痛強度のカットオフ値を評価するために多変量線形回帰分析を行った。ROC曲線の下面積を計算し、T0(固定除去時)、1-FU(1ヵ月後)、2-FU(3ヵ月後)時のVASと固定期間の感度、特異度を全体のサンプルから計算した。有意水準は5%とした。


〇結果

 対象数は92例となった。平均年齢42.0±14.7歳、固定期間4.8±2週であった(Table1)。

 37例(35.9%)が固定後の肩痛を訴え、より長期間の固定が必要な舟状骨骨折を有していた。疼痛強度は固定終了後、フォロー1ヵ月、3ヵ月後すべてで固定期間と強く相関していた(Table2)。

 26例(肩痛患者の66.7%)は手関節固定の3週後に肩痛とROM制限により、肩のリハビリを必要とした。そのうち25例は舟状骨骨折であった。16例は3ヵ月以降もVAS40mm以上の疼痛が残存した。手関節固定期間と肩のリハビリ実施有無との間にも相関があった。

 肩のリハビリが必要か否かを予測するカットオフ値は、3.5週の固定期間(感度97%、特異度32.2%)、固定終了後のVAS35mm(感度97.4%、特異度3.7%)、1ヵ月後のVAS40mm(感度92.1%、特異度3.7%)、3ヵ月後のVAS15mm(感度63.2%、特異度25.9%)であった(Table3)。


〇考察

手関節固定期間と固定除去後1、3ヵ月の肩痛強度の間に強い正の相関があった。Schottら(2014)は橈骨遠位端骨折後の20%は典型的な回復期間を過ぎても機能障害が持続すると報告し今回の結果と一致するが、機能回復が遅れる原因や症状の強さについては記載されていない。今回の結果によると、肩痛強度は固定期間と関係し、特に3.5週以上の固定は肩のリハビリ必要性と強く関連することを示した。

 手関節固定後に生じる肩痛の増強には2つの因子があると仮定する。1つは、手関節が機能を果たせないと代償的に上肢近位部の運動が起こる。肩に通常より大きな動きが要求され肩周囲組織の過度な収縮等を起こしストレスを与える可能性がある。2つ目は肩周囲筋への負荷が変化する可能性がある。過去の研究では肩と手の間に神経的関連があるとした。Alenabiら(2013)は肘、手関節、指の運動時に肩の筋活動が生じることを証明した。他の研究ではグリップ運動で腱板の筋活動パターンが発見され、上腕及び前腕筋の同時活性が姿勢保持としての肩周囲筋活性化を示した。また、手関節固定中の握り方の変化が腱板の活動を変化させる可能性も報告された。

 手関節固定後は肩痛の原因にかかわらず、上肢全体の包括的なマネジメントが重要である。患者が3.5週以上の固定を強いられる場合そのようなプログラムの必要性はより高まるであろう。


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