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上腕骨近位端骨折後の制限の程度に関わる要因

Point

・上腕骨近位端骨折後の6-9ヶ月での制限の程度に影響する要因を幅広く検討

・術後1週での動作への恐怖感や再骨折に対する恐怖感が影響

・術後1ヶ月での自己効力感(回復過程や効果的な対処方法の実感)が影響


◯引用元

Jayakumar P, Teunis T, Williams M, Lamb SE, Ring D, Gwilym S. Factors associated with the magnitude of limitations during recovery from a fracture of the proximal humerus: predictors of limitations after proximal humerus fracture. Bone Joint J. 2019;101-B(6):715–23.

◯背景

上腕骨近位端骨折後の予後予測因子は明らかになっておらず、手術による解剖学的整復固定のみでは必ずしも機能改善の至らないことがある。身体状態のみではなく、心理状態、社会的要因、自己効力感などが腱板断裂患者や肩関節慢性痛患者の症状や機能制限と関連すると言われている(Wolfensberger A. Clin Orthop Relat Res 2016, WylieJD. J Bone Joint Surg. 2016)。

本研究の目的は人口統計学、心理学、社会学的要因と患者報告アウトカム評価(patient-reported outcome measures: PROMs)によって、受傷後1-2週と1ヶ月のどの要因が6-9ヶ月の機能的制限と関連するか明らかにすることである。


◯方法

研究デザイン:前向きコホート研究

対象:受傷後1週間以内の上腕骨近位端骨折患者177名

(女性:128名、男性49名、平均年齢66歳(18-95歳) (Table 1)

2016年1月〜2016年8月、除外基準:18歳未満、英語不可、意思決定困難

最後まで評価を実施できた患者は176名だった。

人口統計:教育歴、婚姻歴、社会歴、仕事歴、利き手

医学情報:受傷側、上肢の既往歴、有害事象、手術歴、受傷機転、開放有無

オピオイド系鎮痛薬使用、抗うつ剤の使用、合併症(感染、再手術、授動術)

     Charlson Comorbidity Indexで併存疾患による死亡率計算、IMD(剥奪指数)

PROMs:1週、2-4週、6-9ヶ月のそれぞれ3回、すべてオンラインで実施した。

Patient Reported Outcome Measurement Information System

Upper Extremity(PROMIS UE)、Pain Interference (PROMIS PI)

PROMIS Depression、PROMIS Anxiety、Emotional support(PROMIS ES)

Instrumental support (PROMIS IS)

※訳注:RROMISはアメリカのNIHで管理されているPROMsのシステム

QuickDASH、Oxford Shoulder Score (OSS)、EQ-5D-3L

Pain Catastrophizing Scale (PCS)

Pain Self-efficacy Questionnaire-2 (PSEQ-2)

Tampa Scale for Kinesiophobia-11 (TSK-11) 恐怖回避思考評価

統計:6-9ヶ月(最終評価)を予測する因子を明らかにするために多変量解析を行った。

   多重共線性はVIFを確認し、相関係数が0.8以上あるものは相関係数が低いものを

   除外して再度解析した。有意水準は5%とした。

事前の解析でpower=0.8、α=0.05とするとサンプルサイズは160例だった。


◯結果

多変量解析の結果、6-9ヶ月時点での制限の指標としたPROMIS UEに影響のある最も強い要因として、1週での恐怖回避思考(TSK-11:R2: 0.14)(Table 3)と2-4週での自己効力感(Pain Self-efficacy Questionnaire-2 R2: 0.266)(Table 4)が抽出された。

術後1週での恐怖回避思考は6-9ヶ月のQuickDASH, OSS, EQ-5D-3Lと関連する因子として抽出された(Table 4)。6-9ヶ月でQuickDASH, OSS, EQ-5D-3Lにより測定された制限に対して2-4ヶ月の多くの心理的要因が影響しており、特に自己効力感は強い影響を示していた((QuickDASH (R2 = 0.12); OSS (R2 = 0.25); EQ-5D-3L (R2 = 0.38)) (Table 4).


◯考察

運動器障害においても心理社会的要因が制限の程度に影響を及ぼすというエビデンスが多くなってきている。本研究で、心理社会的要因の中でも特に、恐怖回避思考や疼痛に対する自己効力感が制限の程度に影響していることが明らかになった。先行研究でも報告があることから、外傷性、非外傷性に関わらず心理社会的要因は上肢機能に影響すると考えられる。認知行動療法が運動器障害での疼痛や制限を減少するというエビデンスもあることも含めると、このようなアプローチはより多くの利点があるかもしれない。

心理社会的要因は領域特異的評価(DASH)、関節特異的評価(OSS)、健康関連QOL評価(EQ-5D-3L)に影響していることから、運動器や健康全般に影響を与える主因の可能性がある。医療専門職は骨折後の回復において骨折の重症度や手術方法、レントゲン上の変形が重要であると考えるが、PROMsにより評価される身体機能に与える影響が驚くべきほど少ないことが明らかになっている。本研究でも骨折型、受傷時のエネルギー、神経血管損傷、開放骨折の有無などの重症度は制限の程度に影響する要因とはいえない結果となった。病理生態学的要因で唯一影響したものは有害事象(創感染、医原性腱損傷)の有無であった。

社会的要因の中でも、婚姻関係(離婚や死別)、雇用状況(無職や休業補償期間)、社会的地位(家族や友人、パートナー有無)も影響を及ぼしていた。つまり、経済的安定性や家族や友人からのサポートは上腕骨近位端骨折後の制限の減少につながる可能性がある。

本研究の限界として、第1に単一機関の研究であることが挙げられる。対象者は幅広い人口統計学的特性をもっているため、この点は肯定的に考えていいかもしれない。第2にPROMs実施の上で、数名は電話やオンラインでの助言が必要だった。これは手続き方法や測定方法、対応者によるバイアスを生じた可能性がある。第3に骨折分類のカテゴリー数が少なく、多くの対象者が同様の分類になったことで解析に影響を与えた可能性がある。

 結論として、上腕骨近位端骨折からの回復に、動作または再骨折に対する恐怖感が大きな影響を示すことが明らかとなり、それに対する効果的な対処方法を実感や、疼痛に関係なく我慢強く実施する活動などを含む逆境力が骨折後6-9ヶ月での制限の程度に影響を及ぼすと考えられた。このような、ストレスや苦悩に関しては認知行動療法により対処可能である。骨折治療において、機能障害同様に心理社会的要因に対して評価、治療を行うことが重要である。


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