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リスフラン関節損傷治療後の歩行解析と機能的転帰

引用元

Van Hoeve S.:Gait analysis and functional outcome in patients after Lisfranc injury treatment. Foot Ankle Surg.2018

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29409269


point

・リスフラン関節損傷後の足部、足関節での運動学的変化を調査

・リスフラン関節損傷後は健常者と比べて歩行速度の低下と矢状面での屈曲伸展可動域制限を認めた

・矢状面での屈曲伸展の可動性は患者満足度にとって重要であると示唆された


〇背景

 リスフラン関節損傷は足根中足関節複合体の骨または靭帯の破綻を伴う。この損傷は全骨折の0.2%と少なく稀である。予後については、patient-reported outcome (PRO)、理学的所見、X線所見を用いて評価されるが、生体力学についてはあまり知られていない。この研究の目的は、リスフラン関節損傷後の足部、足関節での運動学的変化を調べることである。さらに、患者満足度を説明する因子を調べるため多変量ロジスティック回帰分析を実施した。


〇方法

対象:リスフラン損傷治療後の患者19人と健常者21人

年齢25-70歳、足関節や足部に異常や神経学的損傷がある方は除外した。

治療は関節が安定していればキャスト固定、不安定であればORIFまたは関節固定術

術後8週から荷重開始、術後6ヶ月以上経過してから干渉を認めた場合は抜釘、

受傷前の生活に戻り愁訴が最小限となった段階で歩行解析を実施した。

方法:三次元動作解析装置VICON MX(Vicon Peak社,UK)、床反力計(Kistler)を用いて10m歩行を実施

立脚期をloading phase、push-off phaseに分けて、歩行速度とROM(矢状面[屈伸]、前額面[内外転]、横断面[内外反])を算出し、リスフラン損傷後の患者と健常者を比較した。

マーカーはOxford Foot Model (OFM) ガイドラインに準じて設置した。

リスフラン損傷後の患者は、PRO(American orthopaedic foot and ankle society[AOFAS], foot and ankle disability index[FADI]. Short-Form 36 score[SF-36], visual analogue pain scale[VAS])、術後6ヶ月のCT、X線にて整復位も評価。整復位は、荷重下での第1-2中足骨間、第2-3中足骨間のスペースやcalcaneal pitch (踵骨傾斜角:踵骨下縁の接線と第1中足骨小頭底面と踵骨底面とを結ぶ線とのなす角度)、talometatarsal angl(第1中足骨と距骨とのなす角)を測定し判断。

データ解析:運動力学データはMatlabで処理し、統計解析はSPSSで行った。有意水準は5%とした。

多変量ロジスティック回帰分析はenter methodとbackward methodにて行った。





〇結果

【Table1】被験者特性

リスフラン損傷の受傷機転は高エネルギー外傷が7例、低エネルギー外傷12例であり、靭帯損傷のみは含まなかった。5例が安定型であり保存治療、不安定型の8例はORIF、6例は関節固定術を選択され、ORIF後の2人がインプラント干渉により抜釘を施行した。歩行解析は治療後平均17(6-25)ヶ月で実施した。

歩行時の運動学的所見

【Table 2】前足部と後足部におけるROMと歩行速度を示す

リスフラン損傷後は、正常な速度で歩くように求められた際、健常者と比較して有意に低い歩行速度を示した。ROMに関しても、push-off phaseの屈曲伸展が有意に低く、内外転や内外反に関しても有意差のある低い値を示した。loading phaseでは内外反のみ有意差のある低い値を示した。

【Table 3】後足部と脛骨におけるROMを示す

リスフラン損傷後はpush-off phaseの屈曲伸展が有意に低い値を示す一方で、内外転は健常者と比べて有意に高いROMを示した。

【Table 4】歩行とPRO、X線所見との相関:

push-off phaseにおける前足部と後足部の屈曲伸展ROMはPRO(AOFAS、FADI、SF-36、VAS)と有意な相関があった。PROとX線所見、歩行とX線所見には有意な相関は認めなかった。

多変量ロジスティック回帰分析

年齢、BMI、運動学的要因、治療方法、手術時安定性、整復位がAOFASやFADIのような患者満足度を説明する因子となりうるかを調べた。患者満足度の87%はAOFASを使用し説明でき、最良の説明因子は、push-off phaseにおける屈曲伸展ROM、手術時安定性、BMIだった。患者満足度の71%はFADIを使用し説明でき、最良の説明因子は、push-off phaseにおける屈曲伸展ROM、BMIだった。


〇考察

 リスフラン損傷後の歩行解析をした報告は少ない。Köstersらは、リスフラン骨折を有する6人を含む24人の足部骨折患者において、本研究同様にリスフラン骨折後の歩行速度の有意な低下を報告している。Tengらは、リスフラン脱臼骨折後の11人の理学的所見、歩行時の床反力、X線を評価したが、床反力の異常は認められず、床反力とX線結果との相関性もないと報告している。Wissらは、リスフラン脱臼骨折を有する23人のPRO、歩行、X線を評価し、リスフラン脱臼骨折後の歩行変化は主に後足部と前足部の屈曲伸展の異常な動きによって生じていると報告し、前足部への体重移動の遅延や短縮を説明している。

 本研究ではリスフラン損傷後の患者は健常者と比較し歩行速度の低下をきたし、その主要因として、矢状面での屈曲伸展ROM制限(前足部と後足部>後足部と脛骨)があげられ、PROとも有意に相関を示した。ここから、術後の屈曲伸展の可動性が患者満足度にとって重要であると示唆される。

 キャスト固定、ORIF、関節固定の3つの治療群においても複数の差異を認め、キャスト固定後がより良い運動学的、PRO結果を示した【Table5】。また、多変量ロジスティック回帰分析では、転帰の重要な因子は整復位ではなく、手術ごとの安定性であると示された。治療群ごとの結果に見られるように、安定したリスフラン損傷を有する患者はよりいいPROおよび運動学的結果を有した。関節固定後は、より低いROM、PROを示した。これは、不安定性を伴う骨折の重篤度が転帰にとって重要であることを示唆する。 

 本研究の限界は、OFMはショパールとリスフランの両方の関節を含む前足部と後足部との動きを測定し、リスフラン関節単体の動きは測定できないこと、3つの治療群の比較に関しては、各グループには限られた数の患者しかいなかったことが挙げられる。また、抜釘患者は2人のみ分析されたが、今後は抜釘による影響についての研究も求められる。


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