大腿骨頚部骨折の回復速度別に見たリハ内容の調査 〜Practice-based evidence〜
- Tomoaki Onodera
- 2016年10月21日
- 読了時間: 4分
Point
・回復速度で大腿骨頚部骨折患者のリハ内容が変わるのかという調査研究.
・回復の遅い群ではより基礎的な訓練,早い群では応用訓練が行われていた.
・今後の介入方法を作っていくうえで必要なデータとなる.
〇背景
大腿骨近位部骨折患者は増加しており,その患者背景は多様である.(年齢,身体機能,合併症など.)最適な治療を提供するには,どのような治療が提供されているのか知る必要がある.
Practice-based evidence clinical practice improvement (PBE-CPI) は,多様のリハ介入がなされるなか,それを調査するのに有効な手法.
JOINTS(Joint Replacement Out- come in Inpatient Rehabilitation Facilities and Nursing Treatment Sites)の研究班が,股・膝関節の人工関節患者において,PBE−CPIの手法でリハ介入について調査している.同様の調査はこれまでに,脳卒中,脊髄損傷,頭部外傷で行われている.人工股関節患者には大腿骨頚部骨折患者も含まれていた.
大腿骨近位部骨折患者でのこのような最初の研究では,リハビリ介入時間についてリハ施設とケア施設の患者で比較しており,リハ施設の患者でよりリハビリに時間がかけられていたとの結果が出ている.
しかし,今研究では,リハ内容についてより詳細にはっきりさせようとしている.先行研究では,回復速度で3群に患者を分ける研究がされている.(IRTグループ)OPE後からの一日ごとの回復(FIMの点数)による群分けで,IRTはNYHAのようなグループ分けの機能を持つ.
本研究の目的は,①大腿骨頚部骨折患者にどのようなPT/OTが提供されているのか調査②IRTをもとにした3群で提供内容は異なるだろうとの仮説で検討.
〇方法
JOINTSの研究に参加していた226名を対象としたPBE−CPI.(上記の先行研究のデータを利用)
IRTによるグループ分け(回復速度)①遅い②中間③早い
・患者基本情報:年齢,性別,合併症,疼痛(入院2日以内と退院時),Comprehensive Severity Index(CSI score)受傷前とリハ中の身体機能,入院前後での環境的支援,PT/OT内容,FIM
・リハの介入内容:毎回記載.1週間でどのくらいの時間の治療を受けたかで強度を反映する.(fig1.2) 内容はPT16項目,OT28項目に分けた.(先行研究で使用した書式)
〇結果(table2,3,4)
・基本情報:認知症,心不全,人工骨頭の割合は①.②>③.年齢 ①.②>③. 肥満割合 ②<③.
・リハ:ケア施設の割合 ①.②<③.リハの訪問頻度 ①.②>③. リハ実施困難理由における耐久性低下・認知機能 ①.②>③,
・PT:すべての群で8割以上が受けたのが,一般的評価・起居・移乗・歩行・運動. 歩行練習は①<②.③. 医学的観察・車椅子操作・歩行前訓練 ①>②.③,ポジショニング ①>②>③. 疼痛管理 ①,②<③
・OT:ホームマネジメント①<②.③,入浴動作①<③,シャワー①<②,医学的観察①>③
・その他:家族教育①,②>③ 介入頻度(時間)の少ないものから多いものまであったが,グループ間の有意差あるのは少ない. PT4項目(25%) indirect patient care, transfers, gait, exercise. OT4項目(14%) formal assessment, diagnosis specific education, home management, community integration 退院時のFIMは①<②<③,疼痛①>③,自宅退院①<③
〇考察
IRTの3群に分けて治療内容を検討した初めての研究.
やはり回復の遅いグループはより合併症があったり,認知症があったり,身体機能制限があったりする.それゆえIRTでのグループ分けは有用なのではないか.IRTを使用することで患者間の違いをはっきりさせることができ,効果的な介入にもつながってくる.
グループ①,②については疼痛や自宅退院のための問題解決を早期からすべきだし,③については地域社会レベルの活動にもっと注目することが効果的だろう.
入浴練習やホームプログラムの介入が少なすぎるのは今後の課題.加えて,訓練中の家族介入が重要で自宅生活での家族やヘルパーの負担軽減にも繋がるはず.
グループ①は比較的基礎的な訓練が多く,③は応用動作の訓練が多い結果となった.
下肢の運動,車いす移動,歩行などの運動は全群で90%以上で行われており,介入時間も多い傾向にあった.しかし,それより強度の低い運動(浴室内の移動)などは①ではあまり行われておらず,簡単な運動ほど①で行われている結果となった.
群間の差をすべて理解するのは困難であるが,このようなことは治療を継続しているうちに何の活動を選択する助けとなるだろう.
このデータを見た時にグループ①・②は他の介入をすればもっと早く機能回復をしていたのではと考えるかもしれない.しかし,セラピストは患者の能力やペースを考慮していたはず.
退院時にも疼痛の強い症例は多く,今後は疼痛に焦点を当てた研究も必要かもしれない.おそらく疼痛コントロールのプロトコルを確立できれば機能はもっと回復するだろう.とくに①では疼痛にて身体機能の制限がでているのかもしれない.また,①に有効なアプローチが②には有効でない可能性もある.
今研究の制限は①ケア施設なのかリハ施設なのかランダムに選んだわけではない.決まった施設での実施となったこと.②セラピストへの治療内容記載の書式は先行研究の書式を利用したこと.もっと重要な介入があったかもしれない.
〇結論
IRTで分けた3群間で,基本情報や介入内容に差があった.回復速度においてリハビリの実施内容は変わってくる.このことは今後のリハビリのデザインをする上で有用だろう.
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